各々の 旅立ち

 源信は最澄や空海より凡そ150年後に活躍した浄土教の仏教僧である。 その彼が後年、比叡山麓の横川に隠遁して書き上げた書が「往生要集」(10世紀末)である。 いろいろな経典を読み、その中から極楽往生に関する部分を集めて書き上げた著書と云う。 宗教学者の山折哲雄さんは、今から1千年も前のこの時代に既に「看取り」「ホスピス」に匹敵する所業が源信に依って行われていたコト自体が(驚きであり)重要だと云う。 当時の人々の死期の実態は 殆どが老病死だった、だがそれにも拘わらず 死に際しては皆が現代同様に「安楽死」なるものを広く希求していたコトがわかる。

 往生要集では人の死期には臨終と看取りがある、... 何人も浄土に向かうには死ぬ為の作法の臨終の行事と、病者を看取って見送る瞻病送終(せんびょうそうじゅう)の二つの行事を行うとある。 即ち臨終では、人が重い病に倒れた時には阿弥陀如来の前で共に念仏を唱え しかもその間は同志が最後まで看病する。 続く看取りは 病者を看取って見送る作法で命終(めいしゅう)の後、墓所に運びて荼毘に付す、これが送終であると...。 当時、彼を取巻く往生者たちの多くは寿命を悟ると自ら木食(もくじき)から断食・断水の行に入り死への準備をしていた様である。 ... 2019年、NHKで「彼女は安楽死を選んだ」が放映された。 この時、遠いヨーロッパの国の安楽院で自ら望んで果てて逝った彼女は何を思っていたのだろうか。... 源信の時代の人も自らの最後を悟るや、断食の行に入り周囲に見守られながら浄土へと旅立った。 それぞれに死への動機は異なってはいるが...。

 最近、安楽死と云う言葉をよく聞く。 安楽死とは文字通り人や動物に苦痛を与えるコト無く死に至らしめる処置ではあるが、今の日本では自殺ほう助罪に当たるとして実行は原則、禁止されている。 ....安楽死には積極的安楽死と消極的安楽死が有る、前者は飽くまでも本人の意思に基づく死であるが、こちらは自殺ほう助罪に該当してしまう可能性が高い、だが 後者の方は 本人が既に意思表示が出来ない程に病状が悪化していて 然も家族の方も もう延命処置はこの辺で終了したい、そんな環境下では止む無く本人を死に至らしめる結果にはなるが、この場合はギリギリ合法になる。 ... 世界には安楽死OK の国もある、アメリカの幾つかの州、スイス、オランダ、等であるが、それでも積極的安楽死は認められていない。 現在、外国人をも受け入れている国はスイスのみだが、ここでも医師が処方して置いた致死量の薬を患者自身が自ら服用する限りは...、と云う制限がある。 当然のコトながら死の30分後には検屍官と警察官が確認に来る。...安楽死は人が身体的・精神的苦痛からの解放を目指す為の手法だが、周囲は本人が最後に人間としての尊厳を保ちながら逝けるよう、静かに見守ってやるコトも忘れはなるまい。

 断食には、宗教的な行為の他に現今では医療法的なもの、健康法、ダイエット等があり、その他には抗議行動としての断食もある。 その中でも宗教上の断食は起源が古く、宗教が発足した紀元前にはキリスト教、ヒンズー教、仏教など、後年にはイスラム教でも盛んに行われた。 断食は個々にはカトリック系では盛んだった様だがプロテスタント系ではあまり行われず、仏教では特に天台系、真言系で盛んに行われていた様だ。 断食の前の段階には、木食(もくじき)という修行が行われた。 これは五穀 (米・麦・稗・粟・キビ)の食を断ち、専ら山菜や木の実を食する行で、宗教で云う「戎」の一つであった。

 千年前の仏教僧のミイラで、国内で発見されているミイラは 18 体、まだまだ未発見のものも多いと云われている。 特に真言密教は戒律が厳しく修行の一つに入定(にゅうじょう)があった。 高僧が自ら密閉された地下の石室に入り蓋をして、中で読経しながら、断食をして息絶える、...宗教上ではこれを永い瞑想に入っているとするが、現実には断食死である。 その死が健康体の僧による修行だったのか、或いは死期を悟っての断食死だったのかは、今となっては分からない。 だが 1千年前の当時は修行の後の、五十六億七千万年後の未来には誰もが弥勒菩薩に生まれ変われる、そんな希望を抱いての旅立ちだったと云う。 ... 但し、入定の行は現在では(明治以降)、自殺ほう助罪、死体損壊罪等に該当するとして禁止されている。 ... さて、ジワッとやって来た長命の時代、我々はいま どの道を選ぶべきなのか?  迷いは尽きない。

 参考書 :
山折哲雄  往生を希求した人たちの看取り  朝日新聞2020.2.1.

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