人とウイルス

 人と病の関わりは古い。 発掘した骨や遺物から昔の病気を研究する分野を「古病理学」と云うが、研究者によれば日本列島が外部世界と接触の無かった縄文時代の病は外傷が殆どだったのに対して、大陸文化が入り始めた弥生時代以降は、病の質が変わり色々な伝染病の痕跡が見つかる様になったと云う。 病の場合、食中毒の様な遺骨に痕跡が残らない病は後からは追及できないが、逆に痕の残る病は後々に解明できると云う。 ... 日本列島に於いても海外から稲作文化が入り、灌漑が進み家畜を飼い水田耕作が行われる様になり食糧事情は好転したものの、同時に色々な感染症も入ってきた。 遺骨に痕跡の残る感染症の一つは結核だったが、結局この病は現代に至るも消滅には至らずにそのまま感染症として残っている。... 日本書紀の第10代の崇峻天皇の5年の項には、国内に疫病が流行り民の死亡する者は半ば以上に及んだ、その結果 翌6年には百姓の流離が続き 中には反逆する者もある...、と載る。 当時、灌漑農業の始まった米作地帯では感染病が繰り返し発生しているが、記録に残る病はマラリア、住血吸虫、ツツガムシ病だったのではとされている。

 人が患う感染症の 60 % は、実は「人獣共通の感染症」と云われる。 灌漑農業の始まった弥生時代から流行り始めた天然痘や肺結核は牛から、14世紀のヨーロッパで流行したペストはネズミから、近年では豚からのインフルエンザ、犬による狂犬病等々...、100年前の1918年にアメリカで発生したスペイン風邪(H1N1型ウイルス)、1970年代のエボラ出血熱、2002年のSARS (急性呼吸器症候群)、その後に中東地域で拡大したMARS、2020年の新型コロナウイルス(正式名は SARS-CoV-2)は...、これらは何れも動物由来の「人獣感染症」であり、人に感染する力を持つ野生動物由来のウイルスに係わる疾病である。

 1918~1920年に世界的に流行したスペイン風邪の時代には、未だ当時の顕微鏡ではウイルスを発見できず、原因も分からない状態下で各国はそれぞれ独自に対応を行った。当時も今回同様にパンデミック現象が起こり、世界人口の 30 % に当たる 5億人が感染して凡そ 4500万人が死亡している。 その後、ウイルス菌の全容が解明されたのは15年後のコトだった。 当時の記録に依れば、日本では台湾で巡業中の相撲力士3人が感染して肺炎を患い死亡している。 わが国ではスペイン風邪の流行は軍港だった横須賀から始まり全国に広がっている。 結果、このスペイン風邪により当時の日本の内地の人口 5600万のうち、45万人が肺炎を発症して死亡している。 福井県の山間部の或る集落では1000人が死亡して一部落が全滅している。 結局、流行は2年で終息したが、当時の内務省は無策ながらも国民にマスクの着用、ウガイの励行を呼びかけ、激甚地では全学校を休校し、一般人の集会、興行、活劇等を禁止した。 大正の当時も令和の現在とほぼ同様の処置を講じていた訳だ。

 現行の「感染症法...(以下略)」が制定されたのは1999年、従来の「伝染病予防法」に代わって近年の感染症を取巻く状況の激しい変化に対応する為として新しく制定されたものである。 同法には感染症の種類が列挙され、疾病の分類も詳細に表示されている。 例えば、分類の項では 一類感染症(エボラ出血熱等7疾患)、二類感染症(結核等7疾患 )、.... 五類感染症(感染性胃腸炎等47疾患)及び新型インフルエンザ等感染症(111 種類の疾病)などで、同時に感染症発生時に医師や病院、医療機関が行うべき手順等も掲載されている。 今回発生した新型コロナウイルスに依る感染症は未だ同法には記載されていないが、検査や治療の手続きに就いてはこの法律に沿って履行されるべきであろう。

 ...とは云うものの今回の 新型コロナウイルス( SARS-CoV-2)の感染源に至っては、実は未だハッキリしていない。 だが、大勢は感染源はコウモリで、コウモリから人に感染したとされている。 だが、その前のウイルスは何処から来たのかは 国際政治がらみで簡単には決着しそうもない。... ウイルスを宿すのはコウモリの他にも霊長類、齧歯類(ネズミ・リス等)がいる。 その内でもコウモリはウイルスの貯水池とも云われるほどに多種類のウイルスを宿している、更に生息域もアジアや中南米を主にほぼ世界中に広がっている。 そのコウモリは羽根が有るが 鳥ではなく我々と同じ哺乳類に属する。 その種類は約1000種類とも云われ哺乳類全体の20%を占めるほどである。 しかも夜行性で食べ物は昆虫や果物を好むが動物の血を吸う種もあり、しかも寿命は30年と結構 長い。 元々は山奥の洞窟や木の洞に住んでいたものだが、次第に人間が自然破壊をしながら奥地へと入り込んだ為に、自然に人や家畜と接する機会も増えたのも感染増加と無関係ではないと思う。 ウイルスはコウモリから家畜や野生動物を経て人へと感染した。 ウイルスにとって人や動物の体内は住み易い処なのか?   近年、哺乳類の中でも急速にその数(人口)が増加し続けているのは「人類」、20世紀の初め頃には15億だった人口は今では70億人余、100億迄はアッという間だろう。 これからも人類は色々なウイルスと長きに亘って戦って行かねばならない様だ。

 参考書 :

酒井シズ    病が語る日本史    講談社学術文庫



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