海難と漂流民

海難と漂流民

 日本列島周辺を流れる海流は、太平洋側では幅 100㎞、流速 2~2.5m/s の黒潮が房総半島の先まで北上、一方 北から南下して来た親潮は黒潮と衝突して共に東へと進む。 日本海側では台湾~与那国島付近で黒潮から分岐した対馬海流が裏日本沿いに北上している。 天候を見ると太平洋側では暴風雨も多く、また中緯度偏西風帯の南方海域や東シナ海付近では温帯性低気圧が多発して危険、また冬の日本海は偏西風で海は大荒れの日が続く。 この様な気象条件下では海難事故が発生しやすい。... 江戸時代には、ジョン万次郎は足摺岬から15㎞の地点で漁船が突然の暴風雨に遭い遭難、漂流の後 鳥島でアメリカの捕鯨船に救助されて11年後に帰国、大黒屋光大夫は冬の駿河沖で遭難、当時ロシア領だったアリューシャン列島に漂着し 9年後にロシア大陸経由で日本に帰国している、だがこれらは極めて稀なケース。他にも18世紀後半以降に増加した欧米の商船や捕鯨船に救助されたり、実質 東アジアの漂着民送還センターだった清国の福州経由で帰国したケースも若干ある、特に当時の琉球民の救済ケースが多い。

 科学技術の進んだ現在にあっても海難事故はあとを絶たない。 日本でも有史以来、相当数の海難事故が発生している筈だが、その実数は掴めてない。だが、18世紀になるとわが国でも漸く遭難、漂流の実態が記録される様になる。それは遭難者の中の何人かが生還できたコトの証であり、証言により遭難の記録が書き残されたからに他ならない。 それらは幕府に依る公式の記録(長崎奉行所や各藩の取り調べ調書)と漂流者自身(或いは代筆者)が書いた遭難、漂流の記録であるが、漂流記なるものは江戸時代には販売が禁止されていた、これは反幕体制下では領民は例え不可抗力の遭難に依る漂流であっても国外に出ることが禁じられていたからである。漂流記なるものが公式に販売出来るようになったのは明治時代に入ってからのコトである。

 17世紀中期以降のアジア諸国間に於いては相互に漂流民、遭難者送還の慣行が出来ていたが、18世紀後半になるとこれが制度として確立していく。当時の清国では長大な沿岸各地に漂着した外国人漂流者は全て福州に護送して帰国させていた。 安南(タイ)やルソン(フィリピン)も遭難者や漂流者を福州経由で帰国させていたと云う。 当時、貿易国だった琉球王国でも遭難者や漂流者の数は多かったが、殆どが清国の福州経由で帰国している。 太平洋では18世紀後半から捕鯨業と広東向けの貿易業が盛んになり、捕鯨船や商船が多数行き交う様になる。 必然、遭難した漂流民はこれら外国船に救援を求め、一旦は外国へと連行されるが後に故国へと送還されている。 だが、江戸時代のわが国では外国との窓口は全て長崎に置いていたので遭難者、漂流民の引き受けも全て長崎奉行所を経由して行われていた。

 長崎奉行所では引き渡された漂流民を糾問し経緯を記録した後は 、生国の藩から来た 引取り人に本人を引き渡すが、領地に帰ると再び藩の役人から取調べを受けた。これは生還した漂流民が他の地に上陸した場合であっても取り調べの順序は同じで長崎奉行所を経由する必要があった、この時に尋問調書に記された遭難から生還までの経緯が記録として残された訳だ。 ... ある調査では、18世紀後半以降の遭難者の漂流先は凡そ 50%が日本の離島で、30%が朝鮮半島、15%が清国、アメリカやロシアは若干だった、...と発表されている。 江戸時代に在っても未だに造船技術は低く、航海技術も未熟だったので、弁才船に代表されるような和船での外海への航海は死と隣り合わせの危険な仕事だった。

 2019年7月、国立科学博物館の主催で古代日本人移動の沖縄ルート解明のための「3万年前の航海、徹底再現プロジェクト」が企画されて手作りの小舟で台湾中東部の烏石鼻から黒潮に乗って東北方 200㎞ 先に在る与那国島に航行するイベントがあった。 航海は好天に恵まれて実験は成功。 だが、今回は舟の位置情報も海流の知識も十分に持つ有志による航海だったコトも有り、結構安全な航海だった。 だが、3万年前の時代には視界にない島を目指しての 200kmもの長距離の航海は頗る危険な航海だったと思う。 海はその時々の気象条件により時々刻々と変化する。 先住民も失敗を何度も繰り返した後に、漸く新しい島に辿り着くコトが出来たものと思う。 ... だが、3万年前の地球は氷期だったコトも有り海水準も大きく低下していて、現在に比べて 130m 位低かったとされている。 もし、そうだとすれば3万年前の当時と現在とでは この海域の景色も大きく違っていた様な気がしてならない。

 参考書 :
石川栄吉  江戸時代漂流民によるオセアニア関係史料  国立民族学博物館研究報告 別冊6号 1989.2.

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